退職しない教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

われら/やつらを越えて語り合うために

「人を批判したくなったときは少し待て。人は皆、お前が持っているような恵まれた条件を持っているわけではない」 『グレイト・ギャツビー』(F・スコット・フィッツジェラルド)の冒頭で、語り手が父から授かった助言である。何とも印象に残る一言だ。人は…

菊畑茂久馬が語る近代美術のドラマ

画家や美術に関する本がこんなにもおもしろいのはなぜでしょうか。ひとつには、画家たちの人生がしばしば波乱に満ちていること。そして、作品を通して「人間とは何か」「私たちの社会はどのように歩んできたのか」という歴史的な発見があるからだと思います…

僕は仰向けになって目を閉じ、何時間も雲雀の唄を聴き続けた

神戸へ行った。 何で神戸なんだろう。 はじめに浮かんだのは村上春樹。 デビュー作、「風の歌を聴け」の舞台は神戸がモデルだと推測できます。 「前は海、後ろは山、隣には巨大な港町がある。ほんの小さな街だ。港からの帰り、国道を車で飛ばすときには煙草…

母語の外で生きる経験から生まれる豊かさ

入学式前日の準備作業では体育館のトイレ掃除をしました。男子トイレの掃除を6年生の男の子と一緒に済ませてから女子トイレの確認をしました。担当の女の子に話しかけてもキョトンとしています。それを見ていた男の子が教えてくれました。「先生、その子は中…

ハイテンションと多忙で退屈を忘れようとする社会

我が家の娘たちが幼い頃、夢中になっていたプリキュア。そのアニメが面白い進化を見せています。 プリキュアが戦う相手は自分たちに未来はないと感じている悪者たち。しかし彼らも元々は普通の存在でした。それが何かの理由で心を病み、闇の底に落ちてしまっ…

かれらの音楽にはなぜこんなにも人生がつまっているのだろう

先週の職員会のできごと。 教頭先生が「最後にお知らせがあります」と話し始めました。「A先生はまだ年限ではないのですが異動となりました…。では、どうぞ伝えてください」 何の話だろう。 A先生は若い女性教師。いつも落ち着いていて慌てた様子を見たこ…

サリンジャーとハナ肇 じわりと伝わる哀しみ

サリンジャーを読んだ。「彼女の思い出/逆さまの森」(金原端人訳 新潮文庫)。「彼女の思い出」はこんな話。大学生の「おれ」は、いいかげんな奴で、父親からウイーンで勉強してこいと言われてやってきた。おれはそこでリーアという美しい娘に出会う。おれ…

対話への大きな希望

「みんなの考えはどれもすばらしいです。それではこれで授業を終わります」 こんな風にして終わる国語の授業をしたことがあります。 考えを出し合うだけでよかったのか、と疑問が残りました。 「AとBはどちらが正しいのか」という授業をしたこともあります。…

ささやかだけれど、役に立つこと

谷川俊太郎と村上春樹には多くの共通点がある。 その一つがアメリカの作家レイモンド・カーヴァー。 谷川は好きな小説家について語ることは少なかったが、その一人がカーヴァーだった。 村上は多くの翻訳作品を残しているが、最も力を入れていたのがカーヴァ…

わたしたちは真に重要な決定のために脳を使っているのだろうか?

シーナ・アイエンガーさんのインタビューを読みました。(朝日新聞 10月23日)シーナさんはコロンビア大学ビジネススクール教授で、著書の「選択の科学」(2010年)は、世界的なベストセラーとなっています。「100種類の炭酸水から一つを選んでください」と…

メトロポリタン美術館と警備員の私

新聞の書評を読んで買った本ですが、はじめのところを読んでそのままにしていました。ボッティチェッリ、ラファエロなどの名前がありましたが、私が好きなのは近代以降の美術です。「これは違うかな…」とそのままになっていました。最近になって続きを読み始…

戦争について語るのは難しいけれど

福岡市の中心に新しくできたワンビルは私のお気に入りの場所です。その4階にある蔦屋書店で珍しい本を見つけました。タイトルは「作文」。洋書のペーパーバックみたいなつくり。出版元はあのU-NEXT。なんで本なんだろう。どうも新しい形の出版を目指してい…

世界文学の体験記

「発達障害者が旅をすると世界はどうみえるのか イスタンブールで青に溺れる」横道誠著 文春文庫 本屋でこの本を見つけた時、帯にあるブレイディみかこさんと、高野秀行さんの推薦文が目に入りました。読むと分かります。まさにその通り、これは単なる旅行記…

わかる、はわからない。

ジャズ喫茶 おくら 熊本市 2025年9月 何だろう、と考えることは好きですか。例えば、何のために生きているのだろう。成し遂げたいことがあるから。誰かを守るために生きている。楽しいことがあるから…。一つの正しい答えはないようですね。難しいです。 考え…

わたしたちはバラバラで、同じ海の中でつながっている。

いつも行く3年生の教室。9月の歌は「手のひらを太陽に」。わたしも一緒に歌っています。声を出して歌うのは気持ちがいい。明るい窓の方に手を広げて見ている子がいます。何が見えましたか。悲しいときは、そうするといいよ。もっと悲しくなるときもあるけれ…

なんて美しいんだ、とわたしは言った。

「あれはズッキーニですか?」 教室で2年生の男の子が話しかけてきた。何のことだろう。窓の外を見ると学年園が見える。夏休みの間に大きく育った緑の果実。生い茂った蔓は2メートルの園芸ネットを越えて隣の木をつたい、そのてっぺんまで達している。小学…

急に具合が悪くなる ルノワール

「がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者が、死と生、別れと出会い、そして出会いを新たな始まりに変えることを巡り、20年の学問キャリアと互いの人生を賭けて交わした20通の往復書簡。」 「急に具合が悪くなる」晶…

佐賀にいったい何があるというんですか?

映画館に入ると両側の様子が何か違うことに気づいた。中央の席は普通の映画館の席。しかし、通路をはさんだ両側にはソファがあった。それも一つ一つバラバラ。二人掛け、一人掛け、両肘があるものないもの。一人掛けソファの真ん中には小さなテーブルがある…

イカロスたちの夏

日本が起こした戦争について考えている。今振り返ればわかる。歴史を学べば誰でもわかるに決まっている。勝つはずがなかった。それなのになぜ始めてしまったのか。 総力戦研究所というのがつくられていた。日本が真珠湾を攻撃する直前。メンバーはまだ30代…

ロシア文学の深い森 「鼻」ニコライ・ゴーゴリ著

ある朝、パンを食べていたら鼻が出てきた。 ありえんやろう。そうつぶやいてしまそうな冒頭です。チェーホフ、ツルゲーネフ、トルストイ、と読んできたので、まさかそっちからボールが飛んでくるとは。「ソーンダーズ先生の小説教室」の続きです。 鼻を見つ…

生きることの肯定

「やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく」(梯久美子著)を読みました。 やなせたかし(柳瀬嵩)が生まれたのは1919年(大正8年)。5歳のときに朝日新聞の広東特派員として単身赴任していた父が死去。7歳のとき、母の再婚に伴い、伯父の家に引き取…

白土三平のバラッド

男はある日、家までの帰り道でギャーという奇妙な鳴き声を聞いた。男は、どうしてもその声の正体が知りたくなって、他人の家の敷地に入っていった。そこには鳥小屋があり、奇怪な声の正体を見た。ふと気が付くと、後ろに老人が立っていた。「ここで何をして…

藤原新也はレッドベリーだった

今年度、私が担当している新人の中に5年生を担任している教員がいます。これはいい機会です。私が以前から実施したいと思っていた授業が実現できそうです。釜山の教室と福岡の教室をオンラインでつないで子ども同士が英語を話す授業を計画します。通信環境は…

まじで、サヨナラべぃべぃ

理科室の前を通ったらこんな言葉があった。 「人生で変えることができるのは自分と未来だけ」 野口英世の言葉らしい。人は自分よりも他人を変えたいと思うし、未来より過去を変えたいと願ってしまうからね。自分なら変えられるし、未来も変わるのに、そっち…

百年はもう来ていたんだな

教え子たちのLINEグループを見ていると、若い頃の自分の動画がありました。 見知らぬ男性とハグしています。 誰だろう? こんな同僚いたっけ? なぞはすぐに解けました。 AIか。 30歳のころの自分と40歳をこえた教え子がハグする動画。 30年以上前に撮…

わたしたちにはなぜ物語が必要なのか

物語を進める原動力はなんでしょう。 ソーンダーズ先生の案内で「かわいいひと」(チェーホフ)「主人と下男」(トルストイ)を読んで気づくことがありました。かわいい女は結婚と死別を繰り返します。主人と下男は雪の中の強行突破を何度も行います。思い出…

母の話 福岡の生活史

今は長谷のダムがあるやろ、あそこの底に家があったとよ。学校までは遠かったよう。裸足で歩いて行きよった。香椎小学校まで。遠いやろう。よう歩きよったね。だけん今も元気なんかもしれんね。 農家たい。何にもなかった。店とかあるわけないよ。お菓子とか…

傷がないのが傑作ですか?

学生だった1970年代後半、話題になっていたソ連(当時)の映画を見た。何とよくできたお話だろうと感心したことを覚えている。その原作がチェーホフ。以来、いつか読んでみたいと思っていた。それがこの本を選んだ理由。 「ソーンダーズ先生の小説教室」…

ロイヤルホストで夜まで語りたい

このブログのタイトルを変えることにしました。まだしばらく仕事を続けるので「退職しない教員」に変えます。 今年度は再び1年次教員を指導する仕事をすることになりました。3つの小学校の6人の新人教員をサポートします。6つの学級を毎日順に回ります。 …

きちんとステップを踏んで踊り続けるんだよ

「だけど何かが起きている そしてあんたにはわからない そうだろ? ミスター・ジョーンズ」 (「やせっぽちのバラッド」ボブ・ディラン) 3月の修了式の後から体調を崩した。咳、発熱、倦怠感。病院へ行って検査してもらったら、「風邪だと思います。働きす…