退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

「こどもホスピスの奇跡」石井光太

昨日12月25日、福岡市の小学校では終業式が行われました。今日から冬休みです。しかし、12月15日以降は20日を除いて連日、新型コロナウイルス感染症の患者発生による福岡市小中学校の休校措置が続いていました。このウイルスの終息は残念ながらまだまだ先のようです。さて今日は本の紹介です。

 

こどもホスピスの奇跡 短い人生の『最期』をつくる」石井光太 新潮社

 

心を強く揺さぶられるような体験だった。生きること、生き方についていろんなことを考えさせられた。このノンフィクションは日本初の民間ホスピス「TSURUMIこどもホスピス」が完成するまでが描かれている。

小児がんとの苦しい闘いを続ける子どもたち、その家族、治療にあたる医師たち看護師たち、ボランティアとして関わる人たちなど。初めて知ること、考えさせられることがたくさんあった。

まず、緩和ケアのこと。何が何でも治療を優先するのか、それとも苦しみを和らげるため緩和ケアを行うのか、これは難しい問題。驚くべきことに日本では少し前まで治療が絶対優先で、緩和ケアはほとんど行われていなかった。つまり、もう回復の見込みがほとんどない場合でも、患者を苦しめる治療が続けられていた。自分はいやだと思った。もう治る見込みがなければ緩和ケアを受けたい。数年前にガンで亡くなった同僚を思い出した。見舞いに行くたびに「苦しい。痛い」と訴えていた。その言葉が今も心に残っている。

この本に描かれているガンと闘う子どもたち。その一人が久保田鈴之介君。彼は勉強もスポーツもよくできる子。しかも明るい性格でリーダー性もある。自分も苦しいのに他の病気の子たちを励まし続け、相談にも応じる。難病で苦しむ子どもたちの現状を市長に訴え、その改善を実現する。自分を苦しめるガンと正面から向き合い、厳しい状態であるにもかかわらず大学入試まで勉強を続けるが、受験直後にその命は燃え尽きる。

この本は、こどもホスピス設立のために力を尽くす多くの人たちの記録である。旧態依然として変わらない組織に対して粘り強く働きかけ、苦しむ子どもたちのために汗を流す人々が描かれている。この人たちに比べて、今の自分は何ができているか、と考えてしまった。決して悲しいだけの本ではない。人が生きていくことについて考えさせる本である。「深く生きる」ことについて考え続けたいと思った。

 

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