「知らなかった、ぼくらの戦争」アーサー・ビナード編著
著者はアメリカから日本へ初めて来た1990年に「戦後45年」という言葉をたくさん聞いて、奇妙に感じます。
考えてみれば、アメリカは日本との戦争のすぐ後に朝鮮戦争があり、その後のベトナム戦争、湾岸戦争など、いつも戦争が続いています。
それに比べて日本は75年もの間、直接戦争に関係することはありませんでした。
この本はアメリカ人である著者が、戦争のことをもっと知りたいと思い、多くの日本人にインタビューした記録です。
空襲や原爆などの体験、アメリカの日系人、兵士、引揚者など、様々な立場の証言から戦争の実像が浮かび上がってきます。
例えば真珠湾攻撃についてアメリカの人たちは定説を刷り込まれています。
その定説は「大日本帝国は予告もなく一方的にアメリカのハワイ州真珠湾に卑怯な奇襲攻撃を加え、多くの貴い命が奪われ、太平洋戦争の正義の戦いはそこから始まって、すべて当然のお返しだった」というものです。
しかし、自分で調べていくうちにそれがつくられた話だということが分かってきます。
実際は、「アメリカはハワイに向かう日本艦隊の動きを捉えていた。しかし、『対日対独戦線布告』の口実に使えると思い、日本に攻撃させた。その後、このシナリオの効果でアメリカの世論は戦争賛成に変わった」
この事実は、真珠湾攻撃に参加した元ゼロ戦パイロットの原田要さんの証言とも一致します。
「真珠湾には空母が一隻もなかった。これは日本の攻撃を知っていたに違いない」と直感したそうです。
真珠湾攻撃を詳細に見つめれば、偶然とは思えない「偶然」が多すぎて、米政府にとって好都合なディテールばかり重なっている。ただ、現場で死亡したアメリカ軍の2345名を思うと、歴史の実態は残酷すぎる。彼らにとっては日本軍の攻撃はサプライズだったに違いない。(本書P21「サプライズ」の意味 より)
戦争について書かれたものを読むことは苦しさが伴います。
人間とは何と残忍で愚かなのだろう、とやりきれなさを感じます。
しかし、歴史をまっすぐに見つめることをやめてしまえば、私たちの「戦後」はもう終わってしまうでしょう。