退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

「ベルリンうわの空」香山哲

4年前に一人でニューヨークに行きました。
はじめに行った美術館で、同じ絵を見ていた若い人が私に話かけてきました。
ジャズクラブに行ったときも隣の人から話しかけられました。
米国では近くにいる人にはとりあえず笑顔を見せて話をするという文化があることを感じました。
どうもその根本にあるのは、国土が広く、多様な人間がいるので、「自分はあなたに危害を加える人間ではない」ということを自分から示すためのようです。
だから、エレベーターで一緒になった人とも必ず何か言葉を交わす方が自然なのだと分かりました。
言葉を交わす方が少ない日本とは反対ですね。

この本は香山哲さんがベルリンに移住して気づいたこと考えたことをエッセイのような漫画で表現しています。
香山さんがベルリンという街を選んだのは、ここに住む人たちが文化、学問、芸術を大切にしていると思ったからです。
昨年、ドイツで新型コロナが広がり始めたとき、文化は人にとって欠かせないものとして、芸術に関わる人々への十分な支援が発表されたことを思い出しました。

困っている人にはすぐに声をかける文化にも驚きます。
現代の日本はそれと反対で、面倒なことには関わりたくないという傾向があります。
「それは自分が努力していないからだろう…」という自己責任を声高に叫ぶ人も少なくありません。
2つの文化を比べると、新しい気づきが生まれます。

この本の心に残るエピソードの一つが「つまづき石」です。
これは住居の前とかに埋まっている金色のプレート。
ナチスドイツの時代に強制収容所に無理やり連れていかれた人がその建物に住んでいたという記録です。
ベルリンに約8千個あります。
犠牲者を1つに束ねて巨大なモニュメントに記録するのではなく、一人ひとり生活の場に分散しているのが特徴です。
自国の負の歴史にもまっすぐに目を向けるドイツ国民の強い心を感じました。

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