退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

「クララとお日さま」カズオ・イシグロ 土屋政雄訳

休日の朝はいつもレアジョブ(オンライン英会話レッスン)です。

今日の先生はDさん。

フィリピンで高校教師をしている20代の男性です。

ニュース記事を読んで、オンライン授業の長所と短所について意見交流しました。

「生徒一人に一台の端末なんてまだ無理です」と言っていました。

日本は恵まれていることを自覚しなくてはいけませんね。

 

「クララとお日さま」カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 早川書房

 

中学生の頃に読んだSF小説を今も覚えています。

それは、宇宙ステーションに一人残されて永遠に生きていくことになったロボットの話です。

孤独なロボットの描写が切なすぎて、忘れることができません。

 

さて、今回のイシグロはAI( Artificial Intelligence人工知能)と少女との交流の物語です。

この小説の語り手はクララというAF。

AFはどうやらArtificial Friend(ロボットの友だち)のようです。

風景も人物も人物もロボットの目を通して描かれているので、意味が伝わりにくいところもあります。

しかし、そのことによって読者は背景を想像したり、理由を考えたりする余白を楽しめるよう工夫されています。

AIと人間の対比は、人の本質を考えさせます。

心とは何か、善とは何かという問いも生まれます。

 

クララは最新のAFではありません。

最新のAFと比べると、認識機能も身体能力も劣っています。

弱いロボットなので、つい応援したくなります。

クララはときどき不合理な思考にとらわれます。

しかし、それこそが彼女の魅力だと感じさせます。

遺伝子操作による教育格差が暗示されている近未来において、クララが一番人間的であるという逆転の構図。

人間に対する不信も描きながら、希望を感じさせる結末も見事です。

常に新しいテーマに挑戦し続けるカズオ・イシグロからの心温まるメッセージを受け取りました。

f:id:shinichi-matsufuji:20210620162352j:plain