「発達障害者が旅をすると世界はどうみえるのか イスタンブールで青に溺れる」横道誠著 文春文庫
本屋でこの本を見つけた時、帯にあるブレイディみかこさんと、高野秀行さんの推薦文が目に入りました。読むと分かります。まさにその通り、これは単なる旅行記ではない。豊潤すぎる言葉とイメージの洪水に打たれて震えました。横道さんの“間違う力”に度肝を抜かれました。圧巻のワンダーランドです。
著者の横道さんは、自閉症スペクトラム症と注意欠如多動症と診断されている大学の先生です。それを読んで思います、人間は多かれ少なかれ何らかの「障害」を抱えているのではないかということです。前に学校の職員研修で自閉症スペクトラム症の特徴について説明を受けた時、「これって私のこと…」とつぶやく同僚がいました。私自身もあてはまる項目があると感じました。もしかすると、そう感じている人は少なくないかもしれません。人はみんな何らかの障害を抱えて生きている。
さてこの本を紹介しましょう。著者が訪れた国は46か国。ベルリンのドイツ語学校で学習することにした横道さん。いろんな国から来たドイツ語学習者の中で、だれよりも会話ができないのが横道さんでした。しかし、ペーパーテストで1番をとるのは横道さんです。能力に凸凹がある「発達障害者あるある」ですね。というか日本人にありがちですね。外国語を読むこと書くことはできるけど話せない。
横道さんのバイエルンについての説明。「バイエルンは一番ドイツらしいところですね」とドイツ人に言うと、「あそこはドイツではない!」と言われる。ビールがおししいところ、BMWの工場があるところ、ナチスがはじめに勢力を伸ばしたところ。それなのに何故。バイエルンは独特の場所。他の多くのドイツとは違う。ヤンキーみたいと言えばいいのか。例えば大阪を好きになる外国人は多いけど、「大阪が一番日本らしいですね」と言われると困るでしょう。「あそこは日本ではない」と言いたくなりますよね。それと同じです。横道さんの解説はおもしろすぎる。
イスタンブールでサバサンドを食べて体調を崩した横道さん。ホテルのベットから起き上がれない。せっかくこんな遠いところまできたというのに。無駄に時間が過ぎていく。しかし、そんなときに楽しめる時間の過ごし方があるのです。大好きな「ナウシカ」の漫画。それを一コマずつ思い出すことができるのです。すごすぎる。
古井由吉、クリムト、カフカ、感情教育、ハン・ガン、ニーチェ、アルプスの少女ハイジ、ヘミングウェイ、アメリカの鱒釣り、魔の山、禿山の一夜、埴谷雄高、ドストエフスキー、…。次々と引用される文学、音楽、アニメ。そんなことが書いてあったのか。そう解釈することもできるんだ。おもしろくて勉強になります。
この前読んだ「水中の哲学者たち」と装丁が似ていると思ったら、どちらも青でした。横道さんの著書には「みんな水の中」というのもあるようです。わたしも青が大好きになりました。
