「漢字指導の新常識」 土居正博 

「漢字指導の新常識」 土居正博 学陽書房

 

漢字の指導は時間をかけている割には効果が上がっていないことが多い。宿題として、「ノートに2ページ書いてきなさい」などと言われて練習しているが、このような機械的で単調な作業は、子どもにとって苦痛でしかない。意欲も高まらない。多くの教師は漢字の指導はそういうものだと思っていて変えようとしない。これは何とかしなくては。

この土居正博先生の漢字指導は、本当に素晴らしい。漢字50問テストは抜き打ちでも満点続出。子どもたちは夢中になって漢字学習に取り組み、給食時間にも漢字のことが話題に出るようになり、休み時間には「先生、漢字の練習をしていいですか?」と言ってくるようになる。

漢字指導で大切なことは学習の仕方を徹底して教えること。自分でどんどん進められるようにしてあげること。もちろん教師は要所でのチェックは欠かさない。そして、自分で自分をテストできるようにもする。まだ習っていない漢字も自分で学習することになる。「上限」を取り払うことで、子どもたちは学年以上の漢字の力をつける。この指導法では、子どもたちは正確に丁寧に書くことも要求される。厳しいのだ。しかし、だからこそ子どもたちは本気になって取り組む。

漢字指導を通して子どもたちに粘り強さ、自主性、計画性、丁寧さを身につけさせることができる。「漢字を通して人間を育てる」とまで言い切る。著者は1988年生まれ。ということはまだ32才! すでに多数の著書がある。すごい人が現れたものだ。この本が一人でも多くの教師に読まれることを願っている。

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「サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する」梯(かけはし)久美子 

なぜサハリン(樺太)に惹かれるのだろう?

多くの人が集まる華やかな場所ではなく、地図の上でも歴史の流れの中でも、片隅にあるものが気になる。

私が今いちばん気になるのがサハリン。

宮沢賢治はこの地をサガレンと呼んだ。

ロシアにとっては遥か極東の地、帝政時代の流刑地。日本からは北海道よりも更に北。戦前は日本領だったところ。

現在この地には、日本の工場や鉄道の跡が残っている。私は、歴史や人間について考えるとき、このサハリンのような辺境から本当の姿が見えてくるような気がする。

この本はサハリン訪問のルポである。

梯さんは、林芙美子北原白秋宮沢賢治らの紀行文や詩などの記述をたどりながらこの地を旅する。昭和天皇(皇太子のとき)、チェーホフ村上春樹も登場する。

 

宮沢賢治チェーホフの関係も興味深い。チェーホフがサハリンを訪れたのは1890年、その33年後、1923年に賢治がこの地を旅している。

賢治にはチェーホフが登場する詩がある。関心があったのだろう。

チェーホフの「サハリン島」には目を引くエピソードがある。

それはチェーホフがサハリンに来る20年前にこの地で暮らした一人のロシア人のこと。

M・S・ミツーリというその農学者は、学者でありながら道徳タイプ、勤勉家で夢想家。

まさに賢治のような人物だった。

チェーホフはこのミツーリという人物に好感を持ち、詳しく調べている。

ミツーリ、チェーホフ、賢治。サハリンを舞台に時を隔てて3人の人生が交錯する。

しかも、ミツーリは賢治とよく似た人物である。

何という不思議なめぐり合わせだろう。

 

この本は、宮沢賢治の詩を読み解くための優れたガイド本にもなっている。

私は賢治の童話は好きだが、詩は苦手だった。

しかし、この本を読みながら、まるで霧が晴れるように賢治の心の風景が見えてきて驚いた。

賢治のサハリンへの旅は妹を亡くした後の傷心の旅であった。

賢治にとって妹トシは最高の理解者であり伴走者。

この度の前半、賢治は妹の死を受け入れることができずに苦しみもがいていた。

それが、旅の中で少しずつ癒され明るさを取り戻していく。

それを私たちはこの本を通して追体験できる。

私は梯さんのファンになった。

「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道」「原民喜 死と孤独の肖像」「廃線紀行 もうひとつの鉄道旅」「昭和二十年夏、僕は兵士だった」などの著作がある。次はどれから読もう。

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「サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する」梯(かけはし)久美子 KADOKAWA

 

「人間の土地へ」小松由佳著

「人間の土地へ」小松由佳著 集英社インターナショナル

 

著者の小松由佳さんは、2006年に日本人女性として初めてK2に登頂した。K2は世界第2の高峰。登山者の25パーセント、4人に一人が命を落とすという世界で最も困難な山である。小松さんはK2山頂に到達した後、登山から離れ、今度はシリアの取材を始める。イスラムの世界に始めは戸惑いを感じるが、やがてその魅力に強くひかれ、シリアの青年と結婚する。

 

何のために本を読むのだろう。私はK2にもシリアにも行けない。しかし、本を読むことでK2登山の厳しさを感じ、シリア内戦の現実を見ることができる。この本の中で、小松さんが深くかかわったアブドュルラティーフ一家は、大家族の穏やかで幸せな日々が内戦によって無残にも奪われる。この本を読んで、シリアの人々の深い悲しみが自分にも伝わってきた。イスラム世界は西洋諸国や日本から見ると不合理と思えることも多い。しかし、そこには豊かな文化があり、人々の幸せがある。今、私たちに必要なのは、自分とは違う文化や考え方をもった人たちとどのように折り合いをつけ、生きていくかということ。この本が多くの人に読まれることを願っている。

 

私は季節をまたいでシリアへ、砂漠へ、アブドュルラティーフ一家のもとへと赴いた。イスラムという信仰を軸に、ゆったりと生きる人間の姿と、砂漠というむき出しの自然が新鮮だった。砂漠を歩き、空を見上げると、地球を自分の内側に感じることがあった。確かにこの星の上に生きているという感覚。それはヒマラヤの山での感覚にとてもよく似ていた。「人間の土地へ」より

グーグルネストWi-Fiルーター

先週は給食を食べながらM先生からグルメ情報を伺いました。

小笹においしい韓国料理の店があることを教えてもらっていたとき、隣で聞いていた英語専科のT先生が「私、そこに行ったことがあります!」と店の様子を教えてくれました。

そこでT先生たちが食べたのはタコの踊り食い「サンナッチ」だったのです。

私は食べかけていたデザートの梨を落としそうになりました。

「それ!その料理の記事を見たばっかり!」

T先生からそのときの動画を見せてもらいました。

それがまた驚愕の映像!

何と、鍋の中でタコの足が暴れているではありませんか。

ネットで調べてみると吸盤が喉にくっついて窒息することがあるので気を付けることが書いてありました。

ううむ。皆さんはチャレンジする勇気ありますか?

さて、今日の記事は商品レビューです。

 

グーグルネストWi-Fiを購入しました。家の中のWi-Fi環境をつくるための機器(ルーター)とその中継点となる拡張ポイントのセットです。31,900円でした。

これを購入したのは、家の中の部屋によってWi-Fiがつながりにくい所があったからです。私の家は狭いマンションですが、それでも部屋によってWi-Fiが弱くなって困ることがありました。

このグーグルネストWi-Fiの仕組みはどのようになっているのでしょう。ルーターとは別に家の中の他の場所に中継を置くことでWi-Fi電波をつなぐだけでなく、お互いの電波が増幅して、網の目のように広がるようになっています。うちでは、ベースとなる機器(ルーター)をリビングに置き、もう一つを寝室に置きました。完璧とは言えませんが、Wi-Fiが安定してきたので満足しています。

追加の拡張ポイント(中継器)はスマートスピーカーになっていて、毎日使うのは目覚まし機能です。「OKグーグル、明日5時に起こして」と言えば「はい、5時にアラームを設定しました」と答えてくれます。

ネットラジオをストリーミングで聴くことができるのも便利です。私は毎日寝るときにWNYCというニューヨークの公共ラジオを聴きながら寝ています。

困るのは、妻や娘がおもしろがってグーグルに話しかけることです。でも、おかげでグーグルの隠れた能力を知ることができました。「OK、グーグル。怖い話を聞かせて!」「食堂の死体! しょくどうのした、い・・・」と、脱力系のギャグを披露してくれます。まあ、何と言うか、変な家族が一人増えたような感じです。

『熱源』川越 宗一

今日は本の紹介です。近頃、ビジネス書やノンフィクションばかり読んでいたのですが、やっぱり小説はいいですね。しかし、つい夜更かししてしまって眠る時間が少なくなるのがつらいです。

 

『熱源』川越 宗一

 

職員室で給食を食べながら司書の先生と話していたら、この本を勧められた。私が何に関心をもっているのかを察して、おすすめの本を選んでくれるのはさすが学校司書。「熱源」は直木賞作品。私は基本的にはエンターテイメントの直木賞より、純文学系の芥川賞が好みなので、少し心配だったが一気に読んでしまった。村上春樹「1Q84」で引用されたチェーホフの「サハリン島」、映画「レッズ」ドクトル・ジバゴ」などロシアとサハリンに関する様々な場面が蘇ってきた。

第1次世界大戦、ロシア革命の激動の時代。ロシアと日本に翻弄されるサハリンの人々。ページをめくりながら、どっぷりと物語世界につかり、情熱や悲しみを共有した。

時代は明治から日本の終戦(1945年)まで、サハリンに住む人々、そこに来た日本人やポーランド人など、いろんな過去を背負った人々の運命が複雑に絡み合う。

ポーランド人、ブロニスワフ・ピウスツキはロシア皇帝暗殺を謀った罪でサハリンへ流された。祖国独立を強く願う彼はアイヌの人々との交流に癒され彼らのために力を尽くすが・・・。国家の強大な力にも怯むことなく命をかけて行動する人間の姿に心を打たれる。

この本を読みながら、日本と世界の近代を振り返った。私たちは何を残し、何を失くしたのか。歴史を振り返り、多様な生き方に思いをはせ、人間の未来について考えた。

映画「若草物語」

 

若草物語」を見ました。何度も映画化されていますが、今回見たのは1949年版です。

最近、1940~50年代の古いハリウッド映画をよく見ます。昔一度見たことがあるものも多いのですが、この年になって見ると新たな発見があります。

長女のメグ役はジャネット・リー。後にヒッチコックの「サイコ」で殺される女性を演じたあの女優です。エイミー役はエリザベス・テイラー。この時、まだ17歳。輝くような美しさです。そして、私が一番好きなのがジョー役のジューン・アリソンお転婆で勝気なのに傷つきやすい。悩みながらも常に何かに挑戦する姿が何とも魅力的です。ジューン・アリソンジェームズ・スチュアートの「グレンミラー物語」でグレンの妻を演じた人。黄金時代のハリウッドを代表する女優の一人と言えるでしょう。

さてこの映画、冒頭で4人姉妹の性格を明確に示し、その後はホームドラマの原型のような出来事が次々に起きて、観客を飽きさせません。たぶん、全てが室内のセットで撮影されたことが見え見えの雰囲気もほのぼのします。

見終わってからは、自分の身近な人も登場人物とつい重ねてしまいます。「うちの上の娘はジョーをもっとワイルドにした感じだな。下の娘はべスに近いかなあ」などつい考えました。古い道徳観や徴兵のことなど、今見ると驚かされますが、その頃のアメリカの一般的な価値観なのでしょう。「若草物語」はつい最近も「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」というリメイクが公開されています。その映画もぜひ見たいと思っています。

「武漢日記」 方方(ファンファン) 

武漢日記」 方方(ファンファン) 河出書房新社

武漢新型コロナウイルスのため封鎖されていた期間、女性作家がブログを通して、そこで起きたこと考えたことを発信し続けた。文章に熱があり、読者を引きつける。このような非常時には人々の善意と悪意が表に出てくる。多くの死、悲しみ、やりきれない思いがあふれているがその中で強く生きる人々が描かれている。政府の対応の間違いに対して厳しく批判する一方、よいところも見つけ、基本的には協力の姿勢を持っている。中国は自由な論議はできないのではないかというイメージは覆される。筆者の文学への姿勢にも強く共感した。ここに引用する。

 

 小説とは落伍者、孤独者、寂しがり屋に、いつも寄り添うものだ。ともに歩き、援助の手を差し伸べる。小説は広い視野を持って、思いやりと心配を表現する。ときには、雌鳥のように、歴史に見捨てられた事柄や、社会に冷遇された生命を庇護する。彼らに伴走し、温もりを与え、鼓舞する。あるいは、こうも言える。小説自体が、彼らと同じ運命にある世界を表現することもあり、彼らの伴走、温もり、鼓舞が必要なのだ。この世の強者や勝者は普通、文学など意に介さない。彼らの多くは、文学を単なる装飾品、首にかける花輪のようなものと見なしている。だが、弱者たちは普通、小説を自己の命の中の灯台、溺れかかったときにすがる小枝、死にかけたときの命の恩人と捉えている。なぜなら、そんなとき、小説だけが教えてくれるからだ。落伍してもかまわない。多くの人があなたと同じなのだ。あなた一人だけが孤独で寂しいのではないし、あなた一人だけが苦しく困難なのではない。また、あなた一人だけが気をもみ、くじけそうになっているのではない。人が生きるのには多くの道がある。成功するに越したことはないが、成功しなくても悪くない。

 

彼女はテレビ局で働いた経験があるので、中国のメディアの本当の姿も伝わってくる。ニュースの記者たちは板挟みになっている。上からは規制を命じられ、人々からは真実を報道せよと迫られる。では、日本には適正な報道があるのかと問われると答えに窮する。様々なことを考えさせる貴重な記録。何度も読み返したい。