退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

釜山の交番で「聞く力」について考えた

釜山の交番にあった聞くポーズの警察官の大きな写真。日本ではまず見かけない。写真を見ながらS校長先生から以前に聞いたことを思い出した。韓国の警察官はとても親切で優しいらしい。市民はそれを警察に求めているし、警察も要望に応えているという。

これは軍政時代のつらい経験から得たシステムだろう。警察は市民の安全を守ることが第一で、権力者の利益を守る組織ではない。こういうことは私たちが歴史に学び、政治をきちんとチェックしないと失われる。「聞く力」をアピールしながら支持率が下がり続けるリーダーのいる国。少しは釜山のお巡りさんを見習ってほしいですね。

釜山 2024年3月

 

釜山で地下鉄の運賃について考えた

1泊2日で釜山へ行きました。今回は元同僚の教員たちと一緒です。いつものように釜山のS元校長先生に案内をお願いしました。いつもと違うのは移動にすべて公共交通機関を使うこと。前回、地下鉄やバスに乗ってみると日本との違いを多く発見できて面白かったので、今回は地下鉄やバスを利用した計画を立ててもらいました。

空港から市中心部までの往復。1日目に山の近くのお寺まで行って、2日目は列車に40分乗ってキジャン市場まで出かけました。20000W(約2000円)あった交通カードにはまだ10000W残っていました。つまり使ったのは約1000円です。日本の半額以下だと感じました。S先生の説明によると、「公共交通機関の運賃は安くすべきである」という市民の願いが政治によって実現しているそうです。外国の生活を体験すると日本の課題が見えてきます。

釜山 2024年3月

 

奈良と三島由紀夫

奈良へ行きました。三島由紀夫の「豊饒の海」の月修寺のモデルとされる圓照寺に行きたいと思っていたのですが、奈良に向かう途中の新幹線で調べると、通常は非公開で一般拝観は不可とのこと。第一の目的地が消えました。

奈良駅に着いて、最初に向かったのは二月堂。大仏がある東大寺のすぐ裏にある静かな場所です。緩やかな石段の脇の石灯篭は苔に覆われていました。さっきまでは落ち着かない子どものようだった鹿たちもここでは穏やかに遠くを見つめています。二月堂からは奈良の町全体を見渡すことができました。冬の終わりの冷たい雨に濡れた古都。三島はここで何を考えたのでしょうか。

奈良 二月堂

夕食はレストランPOOL。商店街にある居心地のいいレストランです。アンティーク調のインテリアが落ち着きます。料理もうまい。店の方からお薦めの寺を聞いたので翌日はそこに行くことに決めました。

薬師寺には日本で最古最大の十二神将立像(塑像・国宝)がありました。十二の神将立像は、干支で自分の神様が分かります。私の神様の顔はいつも不機嫌な我が娘にそっくりではないですか。神様の前のろうそくに火をともして娘の心の平穏を願ったのでした。

 

「恋の帰結」ブレイディみかこ

白内障の手術をした。数日休んで学校へ行くと廊下の掲示板が変わっていたので驚いた。それは1年生から6年生までの行事の様子を並べた写真。「きれいな写真だなあ! よく撮れているじゃないか…」もう一度よく見ると、前と同じ写真だ…。

映画「パーフェクトデイズ」に関する話題がラジオから聞こえてきた。「あの写真現像屋の店主は柴田元幸さんです」えー!知らなかった! 聞いていたらもっと気を付けて見たのに。もう一度観に行こうと思っていたのでこれで決心がついた。

翻訳家の柴田元幸さんの編集による雑誌「MONKEY」第32号が発売された。伊藤比呂美ジョン・アーヴィングフィリップ・K・ディック坂口恭平古川日出男川上弘美、岸本佐和子、村上春樹翻訳のトルーマン・カポーティ…。ブレイディみかこ「恋の帰結」は、イギリスのおっさんと日本の若者の交流を描いた物語。言葉や文化の違いは誤解を招くこともあるが、その誤解から不思議な世界が生まれる。どこか滑稽だけど切ない余韻。ブレイディさん、やっぱり上手いなあ。

伊福部昭と橋本忍

誕生日にプラネタリウムをもらった。今年の1年次教員たちからのプレゼント。「テーマは癒しです」と説明してくれた。そんなに癒されていないように見えるのかなあ? まあ疲れているようには見えるだろうけど。セットでいただいたのは、ミッフィーの仲間のボリスのマグカップポールスミスの黒いTシャツ、私の好きなものばかりです。

家に帰って、電気を消してリビングの天井に星を光らせた。効果音もなかなかいい。しばらく部屋いっぱいに広がる星を眺めていた。誕生日の夜はこれからいつもプラネタリウムを見ることにしよう。ぼくはあと何回、この星を見るだろう。

 

「大楽必易 わたしの伊福部昭伝」片山杜秀

「鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折」春日太一

作曲家の伊福部昭と脚本家の橋本忍の本を同時に読み進めている。新聞に掲載される片山さんの音楽評論にはいつもおどろかされる。強くしなやかな文章に引き込まれてしまう。ピアニストのイゴール・レヴィットも片山さんから教えてもらってよく聴くようになった。

春日さんは高橋源一郎さんのラジオにレギュラー出演していた人。春日さんの語る映画のエピソードやトリビアを聞くとその映画が観たくてたまらなくなる。高橋さんとコンビの映画談義をぜひもう一聞きたいです。

伊福部と橋本には共通点があった。二人ともデビュー作で大ホームランを放った。伊福部は大学を卒業してすぐにチェレプニン作曲コンクールで第1位入賞した。初めて書いた管弦楽作品、しかも伊福部が学んだのは北海道大学農学部である。

橋本は二十歳で入隊後、「結核廃兵」として療養所に移される。奇跡的に生き延びて脚本家としてのデビューがヴェネチア映画祭グランプリの「羅生門」。

二人はスタートから大きな脚光を浴びたので、その後は苦労が多かったことも容易に想像がつく。それにしても戦中戦後の混乱期の青春は何とドラマチックなのだろう。彼らの人生それ自体が映画のようだ。

 

 

ナチスは「良いこと」もしたのか?

村上春樹による小澤征爾の追悼文を読んだ。

スイスのコンサートの終了後、楽屋で意識がなくなった小澤。

村上は医者が来るまでの間、どうしていいのか分からず必死で小澤の手足をこすり続ける。

やっと意識を取り戻した小澤からことの顛末を聞く。

手術後は消化によくないものは食べないように医者から注意を受けていたのに、いただいた赤飯が美味しそうだったので食べてしまった。

「子どもがそのまま大きくなったような部分がこの人にはあった」

 

村上と小澤の共通点は夜明け前の時間が好きだということ。

小澤は楽譜を読み込む。音楽の深いところまで入り込んで。

村上は意識の深いところまで下りて行って小説を書く。書きながら時折小澤のことを考える。

「そんな貴重な『夜明け前の同僚』が今はもうこの世にいないことを。心から哀しく思う」

秋月 2023年11月

「検証 ナチスは『良いこと』もしたのか?」小野寺拓也 田野大輔著 岩波ブックレット

ドラマ「不適切にもほどがある!」の阿部サダヲの台詞、「正論よりも極論」はいろいろ考えさせられる。

コンプライアンス重視の正論はもう聞きたくない。ルール無視の極論に思わず拍手を送りたくなる自分にハッとする。

これは自分が嫌いなトランプ支持者と同じではないか!

ナチスはよいこともした」というのも似ているところがある。

もうみんな正論は聞き飽きているので、違うことを言う人に注目してしまう。

みんなは知らないでしょうが、実はこんなこともあるのですよ。それを私は知っています。私の話を聞きなさい。

「退屈」の反対は「楽しい」ではなく「興奮」。人々は興奮を求めている。

今、私たちに必要なのは、不確かな情報からの興奮を求めることではなく、歴史学者の丁寧な語りに耳をすますこと。

 

「モトムラタツヒコの読書の絵日記」書肆侃侃房

今朝は大濠公園のロイヤルカフェで妻とブランチ。

先日見た映画「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の感想について話した。

ネイティブ・アメリカンの悲しすぎる歴史。

マーチン・スコセッシ監督、ロビー・ロバートソン音楽。

情けないチンピラのディカプリオ、自分はいいことをしていると信じている極悪人のロバート・デニーロ。悪い奴なのにどこか憎めない人間たち。こんな奴いるよねえ。

マイノリティをめぐる状況は100年前と何も変わっていない。

ザ・バンドの名ギタリストであるロビー・ロバートソンの遺作となったこの映画。

ネイティブ・アメリカンの血を受け継ぐロビーの最後がこの作品であったことは運命だろうか。

香椎の本屋「テントセンブックス」のイベントにモトムラタツヒコさんが来てくれた。

その日は本の交換会が行われて、私が持ってきた山本周五郎の「季節のない街」はモトムラさんに。

この物語が醸し出すブルースのような深い味わいはきっとモトムラさんの心に響くはずだと期待していた。

思いは届いていた。更新が続いているインスタグラム「読書の絵日記」に「季節のない街」を見つけたとき、嬉しくなって家族にも自慢してしまった。

移動祝祭日、新美南吉童話集、カガミジシ、子どもに語るロシアの昔話、印度放浪、青空、海苔と卵と朝めし、アラバマ物語、極北、小川未明童話集、地球どこでも不思議旅、アドルフに告ぐ、戦争いらぬ やれぬ世へ、などのすでに読んだ本への解説を確かめつつ、未知の本への興味は高まっていく。