退職教員の実践アウトプット生活

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「農業フロンティア 越境するネクストファーマーズ」川内イオ著 

「農業フロンティア 越境するネクストファーマーズ」川内イオ著 文春新書

 

スーパーに買い物に行くたびに気になること、それは野菜の値段です。例えば小松菜の袋入りは100円。安くて有難いのですが、農家の方はこの値段で採算がとれるのかな、と心配です。

この本を読んで分かったのですが、心配は現実でした。2017年の調査では、新規就農者の75.5%が「生計が成り立っていない」と訴えています。農業従事者の減少も深刻です。自営業で農業に従事している人の数は、2015年の175万7000人から2020年には39万4000人減少し、136万3000人となっています。

しかし悪いニュースばかりではありません。新しい形で農業を始める人たちが出てきています。それを紹介しているのがこの本。ここに登場するネクストファーマーズの皆さんはとても魅力的です。

新しい農業の創造は簡単ではありません。困難の連続です。その発展の経緯はどれもドラマチックな映画のよう。失敗してもそこから果敢に立ち上がる姿には思わず拍手を送りたくなります。

 

その中の一つ、「スーパーイエバエ」を紹介します。家畜の排せつ物はその9割がたい肥や液肥処理されます。しかし、たい肥になるまでは手間がかかり、処理センターは赤字になるところも多いのです。

この問題を解決するのがスーパーイエバエ。その幼虫は家督の排せつ物を短期間で食べ尽くします。さらにその糞が有機肥料になり、その幼虫は昆虫タンパク質飼料になるのです。しかも、この肥料や飼料は、植物や動物の成長を早めたり、収穫量を増やしたりします。この技術は環境問題や食料危機への解決策にもなるのです。循環型社会を実現し、人類の危機を救うシステムになるかもしれません。宮崎で生まれ、今は東京に拠点を置く、ベンチャームスカ」の創業者、串間充崇さんは、「これは人類を救う存在だと思います」と語っています。

 

農業の産業規模は8.9兆円に達します。しかし、戦後に作られた農業界のシステムは経年劣化して、維持するのが難しくなってきています。若い世代の農業従事者も増えません。それでも、多くの開拓者がいます。この本の著者は、取材で「今さえよければいい」「自分だけが儲かればいい」と考えている近視眼的、利己的な人に会ったことがない、と述べています。

川内さんのエネルギー溢れる文章は、農業に対するネガティブなイメージを変えるだけでなく、未来に対する確かな希望の存在を感じさせます。

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