退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

多和田葉子著「白鶴亮翅」 朝日新聞

   2月から新聞で多和田葉子さんの連載小説「白鶴亮翅(はっかくりょうし)」が始まりました。私は毎朝これを読むのが楽しみです。「白鶴亮翅」とは鶴が翼をパッと広げるという意味で、太極拳のことばです。物語の主人公はドイツに住む女性。異国での暮らしには様々な驚きや発見があります。言葉や歴史の違いから生じたズレや誤解などが、ときにシュールに、ときにユーモアを交えて語られます。

 

   先週は、知人から「引っ越し祝い」を受け取る話がありました。ドイツでは引っ越したときに、塩とパンを持っていく風習があります。塩は「お守りみたいな麻の袋に入っていて」、パンは「身体をまるめて寝ているねこ」のようです。女性は、「引っ越しおめでとう」と言われて戸惑います。「引っ越しはおめでたいの?」その思考は時間や空間をかるく飛び越えて大きく羽ばたきます。多和田さんのウイットに富んだ文章はとてもしなやかで、人間や社会についての新鮮な気づきに満ちています。全身で空中に無数の円を描く太極拳のように。