退職教員の実践アウトプット生活

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「『正しい戦争』は本当にあるのか」 藤原帰一著 講談社+α新書

7月の参議院議員選挙を前にして、日本の進むべき方向についての議論を聞くことが多くなりました。ロシアのウクライナ侵攻の影響で、「日本も軍備を増強すべきだ」という意見が多くなっています。「ウクライナは核を手放したから侵略されたので、日本も核を持つべきだ」という人も出てきました。私の知人も「日本も核兵器がないと侵略される」と話していたので驚きました。日本の軍備をどのように考えたらいいのでしょうか。私は国際政治学の専門家である藤原帰一さんの本を読みました。藤原さんは東京大学大学院で政治学を教えていた先生です。

まずは、「日本は核を持つべきか」という問題です。核兵器を持っていれば、それが抑止力となって攻撃されないのでしょうか。核の抑止力は、双方の国が「核は使うべきでない」の考えがある場合には効果があります。しかし、一方の国が「核の使用はためらわない」場合は抑止力にはなりません。「相手も核を持っているから使用はやめよう」とは思わないからです。

現実は変わってきています。核は使えない兵器ではなく、限定的な使用ができるようになってきました。小型の核兵器は実際に使われる可能性があるのです。

日本が核を持つことによる外交的なマイナス面もあります。日本の憲法9条や平和主義は実は外国ではそれほど知られてはいません。一方、第2次大戦での侵略はよく知られています。そういう状況で日本が核武装となれば、他の国の人々がどう思うのか簡単に想像できます。

近頃の国内の論議では、「平和を唱えるだけでは解決しない。軍備増強が必要だ」という意見があります。これは「100か0か」という意図的な単純化です。軍備増強のための悪意ある単純化だと思います。答えはその中間にあるでしょう。国際政治の現実として戦争は存在します。祈るだけで平和は実現しません。日本には軍備が必要です。しかし、その内容については慎重な検討が必要です。適正な軍備を備えつつ、あくまでも中心は外交。藤原さんのこの本が多くの人に読まれることを願っています。

 

国際政治の選択というと、どうしても平和を祈ることと軍隊を派遣することの両極端にいきがちになる。でもそのどちらも、実は状況を見ていない。いま必要なのは、現在の紛争や将来の紛争を招きかねない緊張のひとつひとつについて、できる限り犠牲の少ない対策を作り、その実現のために努力することでしょう。(本書244ページより)