退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

「季節のない街」 山本周五郎著

学生の頃、黒澤明監督の「どですかでん」という映画を観ました。黒澤監督が不遇の時代の作品です。少数者への共感が描かれている、と感じたのはそんな監督自身の境遇と重ねて見たからなのかもしれません。その原作がこの小説です。

そしてこの夏には、「季節のない街」は宮藤官九郎脚本、大友良英音楽という、「あまちゃん」「いだてん」コンビでドラマ化されました。これはもう見るしかない。わたしは急いでDisney+に申し込んで夢中で見ています。

 

この小説の舞台は、世の中の流れとは外れてしまった人たちが集まる不思議な街です。

登場人物の一人、六ちゃんは知的障害をもつと思われる青年。毎日、自分にしか見えない電車を運転してこの街を走り回ります。六ちゃんの将来が心配な母親は、毎日太鼓をたたいて神様にお願いを唱えます。しかし、六ちゃんが心で唱えていることは「どうか母ちゃんの頭がよくなりますように」。

街のみんなから好かれている島さん。島さんの奥さんは変わった人です。誰とも付き合わないし、挨拶もしない、トラブルも多い。あるとき島さんは会社の同僚を家に招きます。無愛想な奥さんに腹を立てた同僚は「あんな女は叩き出すべきだ」と言います。それを聞いていた島さん、はじめは我慢していましたが、突然同僚につかみかかります。そして、「きみたちには三文の値打もないとみえるかもしれないが、あいつは僕のために苦労してきたんだ、食う物がなくて水ばかり飲むような生活にも、辛抱してきてくれたんだ」と語ります。風呂から帰った奥さんが島さんに言ったことは「話は聞いたよ、僕のワイフだって、ふん」「あたしがおまえのワイフかい、笑わしちゃいけないよ」。単なる人情噺で終わらない意外な展開は深い余韻を残します。

 

読みながらいろんなことが思い浮かびます。人間、人生、お金、世間体、真面目、価値観…。自分はまだまだ一面的にしか見ていないなあ。

 

「半助たちは偽善でもなく冷笑でもなく、ただ興味で六ちゃんを見ている。人が人に興味を持つ、僕はそれが大事だと感じる。それに集約されると思うんです」宮藤官九郎