退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

「ワイルドサイドをほっつき歩け」ブレイディみかこ 筑摩書房

みかこさんたちは友人夫婦とジャズフェスティバルに出かける。

太りすぎていて膝に痛みをもつ友人は車いすを夫人から押してもらっている。

フェスに来ている客から、太りすぎで動けなくなっていると思われた友人は冷たい視線を受ける。

しかし、みかこさんの友人夫婦に向けるまなざしはどこまでも温かい。

 

この本に登場するおっさんたちは1957年生まれの私とほぼ同世代。

イギリスと日本でそれぞれたどってきた道は違っても、今の心の風景はなぜか似ている。

人生の終点がだんだん近づいてきて、いろんな想いが心をよぎる。

本を読みながらハマータウンのおっさんたちとかたい握手を交わした。

 

 とてもやさしく……

 あなたの物語は

 あなたが見ているものや

 あなたがしてきたことや

 あなたがなるだろうものに過ぎない 

 

 あなたの世界は

 あなたの残してきた

 すべての小さなものたちに過ぎない

 

夏の日はなかなか沈まない。もうそんなに長い時間は残されていないのかもしれないが、まだまだどうして眩しい光がわたしたちの世界を照らしている。すべての小さなものたちを。 

                                                                     「グラン・トリノ」を聴きながら

 

2年生 算数 たし算のひっ算

算数の授業を見ました。

今日のめあては「32+4をひっ算で計算しましょう」です。

教師は十の位の数と一の位の数を縦に揃えてたす方法を提示しました。

意外な展開に子どもたちは驚き、引き付けられていました。

「どこが間違っているのか誰か教えて下さい」と教師が問いかけると、多くの挙手がありました。

はじめに発表した子は簡潔に正しい答えだけを発表しました。

その子を褒めてあげた後、「言葉でもっとくわしく説明できる人はいますか?」と聞いて、もう一人の子にも発表させました。

このように、教師が普通に解き方を説明するのではなく、間違いを提示して考えさせるのは良い教え方です。

授業の後半でも、子どもが考えを述べるときには、1人の子が発表して終わるのではなく、他の子に補足させていたところも感心しました。

教師が説明してしまうのではなく、子どもに気づかせ考えさせることを大事にした展開になっています。

コロナの時代の僕ら

「現代のパラドックスがここにある。現実がますます複雑化していくのに対し、僕らはその複雑さに対してますます無関心になってきているのだ」

「ウイルスは、細菌に菌類、原生動物と並び、環境破壊が生んだ多くの難民の一部だ。自己中心的な世界観を少しでも脇に置くことができれば、新しい微生物が人間を探すのでななく、僕らの方が彼らを巣から引っ張り出していることが分かるはずだ」

「コロナの時代の僕ら」パオロ・ジョルダーノ著 飯田亮介訳 早川書房

 

早く元どおりになってほしい、とよく言ってしまう。

もちろん、平穏な日常は戻ってきてほしい。

しかし、現状のシステムは全部戻した方が本当にいいのだろうか。

それについてはよく考えなくてはいけない。

急速なグローバル化、過剰な消費。それに伴う自然破壊や格差の広がり。

今がよければ、自分は関係ない、という人類の甘えをウイルスが吹き飛ばした。

問題は複雑ですぐに答えは出ない。しかし、あきらめずに考え続けたい。

精神的不調は身を忙しくして治す

「老活の愉しみ 心と体を100歳まで活躍させる」帚木蓬生 朝日出版社

何もすることがないといろんな事が思い出されます。そんなときに頭に浮かぶのは、これまでの失敗や間違いばかりなのはどうしてでしょう。気をつけなくてはいけません。悩みや不安は脳を傷つけるそうです。考えてもどうにもならないことは忘れることが一番。私はもう随分前から体も頭も常に動かし続けるよう心がけています。

学校の仕事はこれで終わりということがありません。これからの教育で大切なことは何か、どうしたら授業を充実させることができるのか。それは、難しい問題です。しかも変化し続けているので、どこまで行ってもゴールは見えません。しかし、一生考え続けることができる問題です。それを考えているときは心の充実を感じます。

 

著者は医師の仕事を続けながら、毎年小説を一作品書くことを自分のルールとしています。60歳のときの急性骨髄性白血病も、この考え方で乗り越えたと語っていました。私は学校の仕事の他、家庭での料理、洗濯、掃除など、家事全般も楽しんでいます。頭と身体をいつも動かし続けています。帚木先生にはとてもかないませんが、私も老活を愉しむことができるようになりたいと思っています。

「13歳からのアート思考」末永幸歩著

 

現行の学習指導要領の中でも思考力の重要性が述べられています。
思考力の育成は、教育課題として長年にわたって指摘されています。
それにもかかわらず今も課題となっているのは、思考力を身につけさせるのが難しいからでしょう。
思考力がどういうものなのかという定義の困難さもあると思います。
更に今、課題になっていることは、先を見通すことができない今の時代に、子どもたちにどのような力をつけてあげればいいのか、それが分かりにくいということです。
そういう状況で、この本に出会えて本当によかったと思います。
ここには、今まで私たちが学んできた思考力とは違う新鮮なアプローチがあります。
それは論理よりも感性を大切にした思考のレッスンです。
この本では、絵画を通した「アート思考」を学べます。
これを読んで、現代アートが好きになる人が多くなるでしょう。
楽しく新鮮な気づきをたくさんもらえます。
ぜひ小学校の先生方にも読んでほしいです。
「正解がない問い」に対する思考は、文学、自然、社会などにも応用できると思いました。
「自分なりのものの見方/考え方」を育てるためのヒントがいっぱいのオススメの本です。

「アート思考」の例
「どこから/そこからどう思う?」の問いで深める
①どこからそう思う?
 主観的に感じた「意見」の根拠となる「事実」を問う
②そこからどう思う?
 作品内の「事実」から主観的に感じた「意見」を問う

カンディンスキーの絵画「コンポジションⅦ」を見て
①「うるさい感じがする」「どこからそう思う?」「所狭しと形が描かれているからかな。どの形も見慣れないものだな」
②「多くの色が使われている」「そこからどう思う?」「賑やかな感じがするから、元気が出そうかな」

 

初任者研修資料 指導略案作成について

すべての基本は学習指導要領にあります。
この問題(発問、活動)にはこのような意図がある、と説明できなければいけません。
その根拠となるのが学習指導要領です。
「学習指導要領」の内容は抽象的です。「学習指導要領解説」では少し具体的になっています。それを更に具体化したのが指導案です。
学習指導要領の内容を指導案の中で「子どもの姿」「教室の姿」レベルに具体化します。

授業の展開は、子どもの思考の過程です。
例えば国語であれば、自分で本文を読んで、問題や発問に対する答えを考えてみます。
この発問に対して、初め子どもたちは「△△」のように考えるだろう。それを最終的に「○○」という考えにまで高める。そのための追加の問いが「補助発問」です。
補助発問を考えておくことは大事ですが、それを使わなくてもいいのです。子ども同士の意見交流の中で疑問が生まれ、その答えをみんなで考えていく、というサイクルができることが理想です。
教師が答えを説明するのではなく、発問に対する子どもの発表をつないで「めざす答え」に到達することを目指しましょう。
そのためにも、子どもが最終的に到達する「答え(考え)」はどのようなものになるか、教師が子どもの言葉で文章化してみることが大事です。
予想される子どもの考えを、詳細に「子どもの言葉」で指導案に書き込んでおきましょう。

指導案を書くことに慣れていない先生は、難しさを感じるかもしれません。
まずは指導書通りに授業できるようになることも大事です。
イメージがつかみにくいと感じたら、指導書と同じ進め方で書いてみましょう。
指導書を読み込めば発見がたくさんあります。

参考文献「教員3年目の教科書 新卒3年目からグイッと飛躍したい! 教師のための心得」土居正博著 明治図書出版

書く力と集中力を同時に高める

多くの人が作文は苦手、と言います。
自分はよい文章を書けない、と思っている人がたくさんいます。
これは、国語の授業で作文を書いたときに、よい思い出がないことが原因かもしれません。
そのような、子どもを作文嫌いにしてしまう国語の授業は残念ながらまだ今も続いています。
作文の指導をどのように改善すればいいのでしょう。
まずは子どもによい文章を書くことを求めるのではなく、書くことは苦でない、と思えるようにすることを第一します。
目標はたくさん書くこと、速く書くこと、はじめはそれだけでいいのです。
例えば5分間で何行書けるか、それを競います。
何回か続けていくうちにたくさん書けるようになります。
自分の伸びが実感できる、それを大切にします。
子どもが書いた作文を紹介することも同時に続けていけば、上手に書く工夫にも自然に気が付くようになります。
作文学習のスタートは楽しくシンプルに、まずはそれだけいいと思います。

脳科学者の茂木健一郎氏によると、集中力は次の3つの要素から生まれるそうです。
①速さ→作業のスピードをできるだけ速くする
②分量→とにかく圧倒的な量をこなす
③没入感→周囲の雑音など無視して、夢中になる
つまり、時間制限で自分にプレッシャーをかけながら、できる限り多くの量をこなす。
その時間は周りの様子が全く見えなくなるくらい入り込んでしまう、そんな活動を繰り返すことで集中力が高まります。
ルールが簡単で誰でも取り組める作文ゲームを通して、書く力と集中力を同時に高めましょう。

参考文献「『繰り返し』で子どもを育てる 国語科基礎力トレーニング」土居正博著 東洋館出版社  「脳を活かす勉強法 奇跡の『強化学習』」茂木健一郎著 PHP