「4321」(ポール・オースター著、 柴田元幸 翻訳)を読んでいます。昨年末から「ビリーサマーズ」「パチンコ」と長編小説を読んできて、やはり小説は長い方が面白さも大きい、と感じてこの本を選びました。800ページ88万字。手に持って読めば筋トレにもなりそうな厚さですが最高の面白さです。
今読んでいるのは88ページ。「あっ」と電気が走りました。「ずっと昔の人よ。クライストっていう、19世紀初めのドイツ人作家」。クライスト。どこかで聞いた名前。そうだ、多和田葉子さんの小説『白鶴亮翅(はっかくりょうし)』に出てきた人物。2016年に多和田さんが受賞したドイツの文学賞の名前も「クライスト賞」。クライストってどんな作家だろう。もっと知りたい。こんな風な発見が小説を読むエンジンになります。今までに読んだ本とのつながりを見つけて驚く、二つの本の叙述をつないで読むことで理解が深まる、知らなかったことを知ることの嬉しさ、知りたいことが増えて自分の世界が広がっていく喜び。これが小説を読むことの愉しさではないでしょうか。
この小説には、たとえば78ページにアラン・ラッド、マリリン・モンロー、カーク・ダグラス、ゲーリー・クーパー、グレース・ケリー、ウイリアム・ホールデンなどの俳優の名前。「太鼓の響き」「ベラルクス」「ショウほど素敵な商売はない」「海底2万哩」「日本人の勲章」「トコリの橋」「ヤング・アット・ハート」など映画の名前が出てきます。文学だけでなく、映画、音楽、社会の出来事などを効果的にコラージュすることで読者を引き付け、物語を読み解くヒントや仕掛けとしています。この魅力的な物語は現代アメリカ文学を代表する作家であるポール・オースターが人生最後に私たちへ残した最高の贈り物です。