ずっと喉に違和感があったので、気になってしかたない。もうすぐ70になるし、悪い病気かもしれない。癌か?いやだなあ…。まだもう少しは生きたい。などとくよくよと考えていた。覚悟して病院へいくと、あっさり言われた。「これは風邪ですね。薬を出しておきます」そうか…。聞いて安心したのか、痛みはすぐに消えた。病は気から。
映画「名もなき者」を見た。若き日のボブ・ディランを描いた伝記ドラマ。思い出したのはモーツァルトの映画「アマデウス」。男は周りの人をみんな驚かせる。「こいつは天才だ」。でも、なんで神様はよりによってこんな奴に才能を与えたんだ。俺ではなく、こいつに…。俺もスターになりたかった。
天才も苦悩する。なんで俺のやりたいことを分かってくれないだ。おれがしたいことはもうそれじゃない。ほっといてくれよ。俺は俺のしたいようにしたいだけだ。なぜそれが許されないんだ。勘弁してくれよ。もういやだ。こんなのは俺が望んでいたことじゃない…。天才は孤独です。周りの無理解に苦しみます。
もう一つ、これは切ない映画。
ディランが無名の頃からつきあっていた女性。彼女はごく普通の大学生。男に求めることは、ごく当たり前のこと。自分を大事にしてほしい。幸せになりたい。多くは望みません。でも、天才にはそれが逆に見えない。分からない。気づかない。どっちが悪いということではない。しかし、だからよけいに悲しい。ボブと別れてしばらくたって、誘われてステージ脇で歌を聴いていた彼女。歌を聴いているうちに彼女にはわかってくる。やはりこの男と一緒にいることはできない。涙があふれてきて、一人コンサート会場を去っていく。
君が求めている人は
君が転ぶと抱き上げてくれ
君が呼ぶとかけつけて
花束を贈ってくれる
恋人みたいな人なんだろう
でもぼくじゃないよ
ちがうよ、ちがうんだよ、ぼくじゃないよ
ぼくは君の求めてる人じゃない
「悲しきベイブ」ボブ・ディラン