退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

『BS世界のドキュメンタリー「地球温暖化はウソ?世論動かす“プロ”の暗躍」』NHK BSテレビ

教職員の1年次研修では、基本的に毎週1回、略案(本時の展開のみの指導案)を書いて授業をしています。

そして、2学期後半か3学期初めに総仕上げとして、詳しい指導案を作成して授業をします。

私が担当している1年次教員の一人は、来週水曜日がその授業日です。

何度も相談を重ねて、資料の準備も完了していました。

しかし、欠席していた子どもが検査の結果、新型コロナ陽性と分かり、来週の木曜日まで学級閉鎖が決まりました。

新型コロナウイルスの感染拡大は続いています。

 

BS世界のドキュメンタリー地球温暖化はウソ?世論動かす“プロ”の暗躍」』NHK BSテレビ

 

地球温暖化は本当に深刻な状況なのでしょうか?それとも心配は不要なのでしょうか?

テレビでもネット上でも様々な意見があるので分からなくなります。

 

今から30年前、小学校の国語に環境に関する説明文教材がありました。

私も、ニュース動画や参考文献などからの引用を加えた授業を工夫しました。

このまま環境破壊が進むと、海水の温度が上昇して巨大台風が頻繁に発生して大きな災害になることが予想されていました。

保護者からは、子どもが不安になって夜に眠れなくなっているので、あまり脅かさないでほしいと言われました。

しかし、今、その予想は現実となっています。

巨大台風だけでなく、アメリカでは山火事が連続発生し、南極の氷が溶ける速度が上がっています。

 

このドキュメンタリーは2020年にデンマークで製作されました。

1980年代のアメリカではNASAの科学者が温暖化ガスの深刻な影響を訴え、ブッシュ大統領はCO2削減を掲げました。

テレビのニュースや討論番組では、環境問題が取り上げられていました。

温暖化を訴える科学者に対してコメンテーターがそれを否定する意見を述べます。

危機を否定するコメンテーターの方が自信たっぷりで、科学者は言葉を失っていました。

後日譚として、コメンテーターの一人がインタビューに答えています。

「科学者との討論に勝つのは簡単でした。彼らはコミュニケーションが上手ではなかったからです。」

このコメンテーターは環境問題の専門家ではありません。優秀なセールスマンだったそうです。

そして、大手石油会社から資金援助を受けている会社に属していました。

温暖化に懐疑的な論客は次々とメディアに登場し、批判を繰り広げました。

 

ハーバード大学のナオミ・オレスケス教授は地球温暖化に関する論文937を調べた結果を述べていました。

その中に地球温暖化を否定する論文はただの一つもありませんでした。

彼女はその事実を発表したことで非難、中傷を受けています。

NASAの知人に相談すると、80年代にも科学者たちが中傷を受けていたことを知ります。

この番組を見て、なぜ地球温暖化を否定する人が多いのかその謎が解けました。

ここにも「一つの花」が  梯 久美子著「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道」

先週は、1月6日から仕事を始めました。

6日は3校を回って、3学期の授業づくりについて一緒に考えました。

7日は、本務校のオンライン始業式に参加してから、午後に3人と面談しました。

始業式の朝の黒板には、担任からの新年のメッセージに「鬼滅の刃」「ワンピース」の登場人物たちの絵が添えてありました。

3学期初めの学級指導は、写真や動画のプレゼンを交えた興味深いものでした。

 

ここにも「一つの花」が  梯 久美子著「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道新潮文庫

 

大泣きして父を困らせたのは、九歳のたか子だった。松原小学校に通っていたが、たまたま父兄会のために授業が短縮され、父の出発に間に合ったのである。普段は利発で聞き分けのいいたか子が何故かぐずるのを、この日は誰も叱ることができなかった。

迎えの車が門前に到着したのは、午後の早い時間である。父が死地に赴こうとしていることなど知るはずもない幼い娘は、しかし、車を見送った後も長いこと泣きやまずにいた。

 たか子がこの日いつまでも座り込んで泣いた玄関は、父との思い出の場所だった。時間に厳格な栗林は毎朝支度を早めに済ませ、副官が車で迎えに来るのを玄関で待つのが習慣だった。その短い待ち時間に「たこちゃん、踊りを見せてくれないないかい」と登校前のたか子に頼むのである。長じて大映ニューフェイスとして女優デビューすることとなるたか子は、上がり框を舞台代わりに『雨降りお月さん』を唄いながら、日本舞踊のまねごとをして父を喜ばせた。(本書第一章「出征」から)

 

映画「硫黄島からの手紙」(クリント・イーストウッド監督・製作、渡辺謙主演)を見たのが2006年。

2020年に梯 久美子著「サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する」を読み、この本の存在を知りました。

これは「サガレン」で大ファンになった梯さんが書いた栗林忠道の本、大宅壮一ノンフィクション賞受賞、米・英・韓・伊など世界7か国で翻訳出版。

ずっと読みたいと思っていた本をやっと読むことができました。

 

米国への留学経験がある栗林は、開戦には反対していました。

戦争になれば、国力の違いから負けることが分かっていたからです。

それでも、他の高官たちが辞退する中、硫黄島総指揮官の命令を受諾します。

前任の総指揮官は硫黄島には在留せず、父島から指令を送っていたのですが、栗林は最後まで部隊の先頭に立って指揮を続けました。

 

栗林が硫黄島から家族に宛てた手紙を読むとその人柄がよく分かります。

優しくユーモアがあり、誰に対しても公平に接していました。

家では女中さんが洗う食器を、横に立って拭いてやることもあり、それだけでなく、食事の席には女中さんも同席させ、面白い話をして家族を笑わせていました。

水や食料が不足していた硫黄島で、栗林は自分だけを特別扱いすることを許さず、毎日飯椀一杯ほどの水ですべてを済ませていました。

戦いの準備をする間、栗林は毎日島を歩き回って兵士一人ひとりに声をかけます。

こんな総司令官だったから、二万余の日本兵が地獄のような戦場を戦い抜くことができたのでしょう。

 

梯さんの抑制のきいた文章と巧みな構成によって、栗林総指揮官と硫黄島に散った兵士たちの願いが鮮やかによみがえってきます。

歴史から学ぶことをやめたときに人は同じ過ちを繰り返すのでしょう。

手元に長く置いて何度も読み返したい本です。

 

たこちゃん、お父さんはこの間また、たこちゃんのゆめを見ましたよ。

それはたこちゃんがとてもせいが高くなっていて、お父さんくらいありました。そして、お父さんのズボンをはいていましたが、頭はおかっぱでした。

あまりせいが高いのでお父さんはびっくりしていたら、そこへ丁度お母さんが出てきましたので、二人でいつもよくしてあげたように、おっぷりまわしてやろうとしましたが、とても重くなっていて、それはできませんでした。(栗林から次女たか子あての手紙 昭和19年12月23日付)

 めそめそと赤ん坊のように泣くたか子を夢に見たのは、出征のときの泣き顔が眼前を去らなかったためだろうか。

 そして翌月、今度は大人になったたか子の夢を見ている。「せいが高く」「とても重く」なってはいても、たか子は父のおさがりのズボン(軍属の貞岡が仕立て直したものだという)をはいており、髪型は門前で別れたときと同じ「おかっぱ」のままである。栗林が成長したたか子の姿を夢の中以外で見ることは、ついになかった。(本書第一章「出征」から)

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今日の1曲「Whiter Shade of Pale(邦題:青い影)」Santana, Steve Winwood

サンタナの新しいアルバムからの1曲。

サンタナのラテンギターとウインウッドのボーカルが絶妙なブレンドです。

このメロディを聴くと、マーティン・スコセッシの映画「ニューヨーク・ストーリー」を思い出します。

若さを追い求める男のせつなさがこの曲に込められていました。

ロックミュージックの本質はこんなところにあるのかもしれませんね。

「もしわたしが『株式会社流山市』の人事部長だったら」手塚純子著 木楽舎

「もしわたしが『株式会社流山市』の人事部長だったら」手塚純子著 木楽舎

 

どうすれば街を活性化することができるのでしょう。

魅力的なコミュニティをつくるにはどうすればいいのでしょう。

この本にはその具体的な実践例が書かれています。

 

著者の手塚さんは結婚と同時期に千葉県流山市に移住します。

流山市は都心の通勤圏にあって、転入が増えているまちです。

そのまちで育休中に地域活動を体験し、多くの学びや出会いを得ます。

育休の終了後に職場に復帰するのですが、第2子の育休中に地域活動を仕事にできるのかを確かめるために行動を始めます。

市民団体を設立し、市と連携してイベントを成功させ、その体験と人脈を基礎として株式会社を設立します。

地域活動を会社として機能させるところがユニークです。

 

手塚さんの会社WaCreationは、流山駅舎の旧タクシー倉庫を改装してコミュニティスペースをつくります。

そこは、子ども、主婦、退職高齢者など多様な人たちの交流場所となり、数々のイベントが開催されます。

この地域にゆかりのある「みりん」を使ったお菓子の製造と販売、ローカル鉄道「流鉄」のグッズ開発など。

その他にも、特別支援学校や千葉大学との連携事業もあります。

 

手塚さんの構想の基本は、「まちは学校」「まちが人を育てる」です。

まちのイラストレーター橋本さんは、この活動がきっかけでその後独立します。

子ども店長」をしていた悠生くんは、その後、地域防災に関する提案を東京大学で行います。

地域の役に立ちたい、仕事がしたい、と思っている多くの人にチャンスをつくります。

 

手塚さんは、地域活動とビジネスの融合を成功させました。

はじめは1か所だった地域コミュニティ「machimin」は3か所に増えて、すべて収支は黒字です。

このような地域コミュニティの発展を願っている自治体と何か役に立ちたいと出番を待っていた人たちの両方に「利益」をもたらしました。

 

手塚さんはこの本の中で「暮らし方改革」という提案をしています。

このビジネスモデルは、専業主婦、退職高齢者、障がい者、子どもなどの社会参加を促進するだけではありません。

大量生産と大量消費の社会から転換するヒントにもなっています。

食料の地産地消のように、「ビジネスの地産地消」のモデルかもしれないと感じて、自分がやってみたかったことの道筋が見えてきて嬉しくなりました。

 

  日本の社会には、まだまだ「経済活動に従事している人の方がえらい」という価値観や風潮が根付いています。そうした中で、子どもや退職したシニア、専業主婦、障がいがある人、社会とつながりを持ちにくい人たちが挑戦しがいのある活動に継続して携わるには、非営利目的でも事業性を持たせて金銭を獲得できる仕組みづくりにこだわる必要を感じるのです。仕事を与えられなくとも、仕事は作れます。作ればいいのです。自分の“好き”や“得意”を軸に強みが換金されていくはずだ、世の中にある流れは変えられるのではないかという仮説を検証したいと思いました。(本書27ページ「はじめに」より)

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100分de名著「資本論」カール・マルクス 斎藤幸平解説 NHKテレビ

先週は、特別支援学級で英語活動の授業をしました。

学期末の恒例です。

1時間目はクイズとゲーム、2時間目は作って遊ぶ活動。

もう随分実践を重ねてきたので、2時間を楽しく英語で遊ぶことができたと思います。

「私はあの子が話すところを初めて見ました」というのは、授業を見た校長先生の言葉。

英語活動では、いつもとは違うコミュニケーションの扉が開くので嬉しくなります。

 

100分de名著「資本論カール・マルクス 斎藤幸平解説 NHKテレビ

 

この番組は今年1月に放送されてから反響が大きく、今月12月にアンコール放送が決まりました。

番組を見て、テキストを読めば、その人気の秘密が分かります。

 

今朝の新聞に日本経済の予測が掲載されていました。

最近の石油価格の高騰は、輸入品をはじめ様々な物価にこれから影響を与えます。

その結果、物不足と物価の上昇が始まること心配されています。

賃金は上がらないまま、物価だけが上がれば、小さな会社や貧困家庭は大きな打撃を受けることになるでしょう。

日本が続けている新自由主義の経済政策は見直しが必要です。

 

このテキストを読んで新自由主義について再確認できました。

新自由主義とは、20世紀後半に欧米や日本などの先進国が採用した経済政策です。

公共事業の民営化、規制緩和による市場の自由化によって経済が活性化するという考え方です。

日本でも郵政事業や電電公社などの民営化が実行されました。

民営化や規制緩和によって、競争と効率化が促されるのは良い面もあるでしょう。

しかし、それによって富を増やしたのは一部の人たちだけで、労働者の賃金は上がらず、格差は広がるばかりです。

新自由主義によって企業の利益が増えれば、社会全体が豊かになると言われていました。

しかし、それはいつまで待っても実現されません。

 

このテキストで紹介されている全国の公立図書館の非常勤職員が増えているデータにも驚かされます。

公立図書館で働く人の5割以上が非常勤職員となりました。

これは「効率化」と「コスト削減」が何よりも優先された結果です。

このままでは、図書館で働きたいという人は減る一方で、サービスの質も低下していくでしょう。

公立図書館は大切な社会の「富」ですが、資本主義の原理では切り捨てられていきます。

公立図書館は「商品」ではなく、儲けを生まないからです。

このような現在起きている社会の矛盾をマルクスは予言していました。

 

資本主義の暴走は、教育、医療、住宅、電気、水道などの社会的基盤へのアクセスを不十分にするだけでなく、エネルギーや資源の大量消費が地球環境に壊滅的な打撃を与えます。

ではどのような解決のヒントがあるのでしょうか。

このテキストではアムステルダム市の取り組みが紹介されています。

国の政策転換を待つのではなく、ローカルなコミュニティや地方自治体から変革が起きています。

環境破壊と貧困を同時に解決する新しい都市の構想です。

バルセロナの呼びかけで始まった「ミュニシパリズム」(地域自治主義)が世界中に広がっていることが大きな希望です。

斎藤さんの丁寧な案内がなければこの難解な「資本論」に目を向けることはなかったでしょう。

斎藤幸平さんありがとうございます。

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今日のBGM “River” Joni Mitchell

 

 

大学のキャンパスのような地域に  菅原和利著「自分の地域をつくる」 本の種出版

今日はオンライン研修会で海外日本人学校元校長のM先生のお話を聞きました。

コロナ感染者が広がり始めた頃、オンライン授業の可能性を試行しながら、ピンチをチャンスに変えるような実践が行われていたことは驚きでした。

 

大学のキャンパスのような地域に  菅原和利著「自分の地域をつくる」 本の種出版

 

これは東京の最西端の奥多摩町に移住した青年が書いた本です。

過疎地で会社を立ち上げる経緯が描かれています。

菅原さんが当初手掛けたのは、アウトドアウェディング、ウェブサイト作成、パソコン教室、サマーキャンプ、シェアビレッジ(シェアハウスの別荘版)など。

その後、小田原で不動産屋の営業マンとして働いた後、再び奥多摩に戻り、林業を通して東京の森と都市をつなぐ事業を始めます。

地域コーディネーター兼アテンダーとしてまちの活性化に関わりながら、保育園・幼稚園への木製遊具販売などが成功して会社は軌道にのります。

 

「都市への人口集中と地方の過疎化」という問題はどうすれば解決できるのでしょう。

福岡市東区の千早、照葉は、新築マンションの建設ラッシュがもう10年以上続いています。

一方で、福岡市から離れた地域の人口は減っています。

都市への人口流入を減らして、過疎化が進む町にもっと人が増えればいいのですが、これは非常に難しい問題です。

理念だけでは人は動きません。そこに楽しさや魅力が必要です。

つい最近、福岡市地下鉄で佐賀への移住キャンペーンを見ました。

電車を待つ間、多くの人が佐賀で暮らす楽しさを想像したことでしょう。

このような地域からの情報発信は効果的だと感じました。

金銭的な豊かさとは違う豊かさを求める人は確実に増えています。

菅原さんが提案する「仕事/ワーク、暮らし/ライフ、遊び/プレイ」を融合させた新しい生き方はとても魅力的です。

 

地域にどう人を入れていくかという話ばかりじゃなくて、自分たちの地域だったらこういう成長ができる、こんな学びがあるということを、きちんと打ち出していく。そうすることで、学びたい人が評価して、移住してきて、本当の意味で学びながら活躍できるというような場所が、いい地域なのかなと思う。(本書160ページ「学べる、成長できる、必要とされる人と、地域がつながるために」より)

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きょうのBGM Ed Sheeran "Overpass Graffiti"

 

言葉にならない願いを聞きとる  上間陽子著「海をあげる」

今日のランチはモスのグリーンバーガーを食べました。

肉を使わない大豆パティのハンバーガーです。

予想よりおいしかったので驚きました。

こんな風に日常の食材も変わっていくのですね。

 

言葉にならない願いを聞きとる  上間陽子著「海をあげる」

 

悲しみのようなものはたぶん、生きているかぎり消えない。それでもだいぶ小さな傷になって私になじみ、私はひとの言葉を聞くことを仕事にした。(本書29ページ「美味しいごはん」より)

 

著者は琉球大学の先生。

教育学が専門の上間教授は沖縄の未成年少女の支援や調査を行っています。

この本では沖縄における性暴力の被害、基地問題などが幼い我が子との日常と共に語られています。

沖縄の少女たちの現実や基地の実態を聞くのは苦しいですが、著者の温かい眼差しに共感しながら読み終えました。

沖縄の人々の声を自分は今までどれだけ聞くことができていたのだろう、と考えました。

沖縄の海と少女たちの姿が私の前に重なって現れます。

傍観者でいることは結局、加害の側にいること。

 

今年6月23日、1年次教員のT先生が「うーとーとー(お祈りすること)」と自分が育った沖縄の方角に向かって手を合わせていました。

私たち教師が沖縄の歴史を伝えていくことの大切さをもう一度考えました。

 

三月の子どもは歌をうたう。大きくなることを夢見て歌をうたう。大人はみんなでそれを守る。守られていることに気づかれないように、そっとそおっとそばにいて。(本書155ページ「三月のこども」より)

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なぜ彼女はノマドの生活を続けるのか クロエ・ジャオ監督「ノマドランド」

戻ってきなよ 戻ってこいよ

お前がもといた場所に戻ってきなよ

(「Get Back」The Beatles

 

ビートルズの映画「ゲットバック」を見るためにディズニープラスに加入したら、前から見たかった「ノマドランド」あったのですぐに見ました。

映画「ノマドランド」の主人公は、車で生活する初老の女性です。

アマゾンの倉庫、国立公園などアメリカの地方都市で仕事を探して移動しながら生活しています。

非常に「静かな映画」ですが、始まってすぐにこの作品世界に引き込まれていました。

この作品が持っている強い力は何だろうと気になったまま映画は終わりました。

見終わってから解説を読んでその理由が分かりました。

この映画の主人公は役者ですが、その他のノマドを演じる人たちの多くは、本当のノマドの人たちが自分自身を演じているのです。

もうひとつ、この映画は人工の照明ではなく、自然光を使って撮影されています。

しかも、夜明けに日が昇る直前、日暮れに日が落ちた直後のマジックアワーに撮影されているのです。

独特の演出と撮影がこの映画の魅力と言えるでしょう。

 

この物語はアメリカ社会の現実です。

格差が広がるアメリカでは、定年まで普通に暮らしていた人々が、何らかの事情でノマドになっています。

主人公のファーンは夫を亡くした後、街の工場は閉鎖されました。

住民は次々と街を離れていき、住む人が誰もいなくなった街は郵便番号さえ消えたのです。

しかし、この映画はそんな社会問題を告発することを主題にはしていません。

ノマドの生活の過酷さも描きながら、自然と一体になったその美しさを表現しています。

 

ファーンは、男性から一緒に定住の居心地のよい家に住むことを提案されます。

しかし、それを受け入れずに、再びノマドの生活を続けることを選びます。

そして、映画はファーンがかつて暮らしていた家を訪れるところで終わります。

なぜ彼女はノマドの生活を続けることを選んだのでしょう。

 

映画「ゲットバック」は、ビートルズの映画「レットイットビー」の未公開フィルムを再構成して作った映画です。

ビートルズを一番大事な「友だち」のように過ごした人々にとって、これは自分自身の「古いアルバム」なのだからどうしてもこれを見ないままにしておくことができません。

ポールが「戻ってこいよ」と呼びかけている相手は、仲間のジョンとジョージとリンゴ、そしてビートルズ。このときビートルズは「瀕死の状態」でした。

ファーンに「戻ってこいよ」の声を届けたのは、失われた「家族との時間」。その声を彼女はアメリカの広大な自然の中から聞き取ったに違いないと思いました。