「あああああああ!」
街中を歩いていたら大きな声が聞こえた。
どうやら私に向かって発せられている。
何か踏んだか?
何か落としたか?
気づくと若い青年が私の靴を指さしている。
そのとき履いていたのは10年近く愛用している靴。
ちょっと上等の休日用の革靴だ。
あちこち傷があり、底もすり減ってる。
何も言っていないのに男は傷の部分に黒クリームを塗り始めた。
それか!
しまったと思ったけど
まあいいか。
小銭を渡してやろう。
靴磨きなんてしないんだけど
「靴を脱げ」と言われてそうすると
今度は底のすり減った部分の修理が始まった。
そんなことしなくていい!!
そんな抗議は聞く様子もなく
あっという間に修理は完成した。
男は終始ニコニコしている。
上手な日本語で「29万ドン(約1500円)」
高いよ、20万ドンだけ!!
私は憮然としてその場を離れた
男は笑顔で「アリガト」と手を振っている
まあこれも旅の思い出
そろそろ捨てようか
と思っていた靴も命を救われた
きれいによみがえってまだしばらく使えそうだ
修理が必要だったのはすり減った私の心だったのかもしれない