退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

「鍋の中」村田喜代子

金曜日は1学期の終業式でした。1年生の教室では先生が子どもたちに話をしていました。「明日から夏休みです」「えー、まだ学校に行きたかった!」と、1年らしい反応です。その後も子どもたちから質問が続出します。「今度は2年生ですか?」「まだ1年生です」「先生は変わりますか?」「変わりません」「クラスは変わりますか?」「同じです」。「ああ、よかった…」と安心する子どもたち。1年生、面白すぎる。

 

 土曜日は中州のBillsでランチ。世界水泳選手権が開催中なので、店内は海外からのお客でいっぱいでした。私たちが外国に行くと和食が恋しくなるのと同じなのでしょう。

「鍋の中」村田喜代子

読む前からとても気になること、それは「鍋の中」というタイトル。変です。一体何のことでしょう。

物語は夏休みに孫たちが田舎の祖母の家に集まるところから始まります。田舎の生活が始まってすぐ、祖母が料理をつくる場面があります。ここで鍋が出てきます。祖母がつくった料理は煮込みすぎてぐちゃぐちゃ。とても食べられたものではありません。

祖母には10人を超える子どもたちがいます。全ての記憶が確かではありませんが、とても詳しく覚えていることもあります。主人公もそれを聞いて、いろんなことを考えたり想像したりします。信じられないような辛い話もありました。しかし、終盤に主人公は気づきます。祖母の記憶は絡まり合っている。どこまでが現実でどこまでが想像なのかもう区別がつかなくなっている。

ラストは祖母が雨の中をさまよう姿で物語は終わります。ここで読者は気づきます。祖母の記憶は溶けて混じり合っている。祖母がつくる鍋の中の料理のように。題名から始まり、題名で終わる、見事な小説の構成です。

普通、私たちは何か文章を読むとき、タイトルを真っ先に読んで、それから本文へと移る。だが、本文を読み終えたところで、もう一度読後感とともにタイトルを見直すものである。つまりタイトルは最後の一行を読み終えたあとにくる、本当の最後の一行といえる。     「名文を書かない文章講座」村田喜代子