退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

運命のひとひねり 村田喜代子とボブ・ディラン

「耳の叔母」(村田喜代子著)を読みました。著者の村田喜代子さんには一度お会いしたことがあります。福岡市の国語研究会で講話をお願いしたことがあって、その打ち合わせをしたときです。有名な芥川賞作家と会える、と緊張してしまって何を話したのかよく覚えていません。打ち合わせの前に読んだのが「名文を書かない文章講座」という本。「文章を書くこと」について、「ああ、やっぱりそうだよね」と共感することばかりで、今まで何度も読み返してきました。

今回読んだのは「耳の叔母」は、香椎のテントセンブックスで買いました。出版は、大名の書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)。福岡にゆかりの深い本です。本の帯には「怖れと闇と懐かしさ」とありますが、読みながら「まさにその通り」と納得しました。村上春樹の小説にも耳にこだわる主人公がいました。耳は小説家の想像の入り口によくなります。村にある古い神社、その中に入ってみると、「耳」たちが着物で踊っている。歌っている。三味線や笛や太鼓を持っている。暗い夜道を歩いていると、子ども掌くらいの「耳」が飛びまわっている。表題作「耳の叔母」はそんな不思議な村田ワールドが展開しています。

村田さんの文章の魅力は何だろう、と考えました。共通点を感じたのはボブ・ディランローリングストーンズです。それは音楽のグルーブ。ズレ、波、うねり。ディランの歌声は奇妙です。音程が合っているのかよくわかりません。ストーンズの演奏も正確に進むことなく、微妙なズレを感じさせます。だから、誰も真似ができないし、強い個性が多くの人を引きつけます。村田さんが文章講座で「存分に下手くそに書こう。どこかで聞いたようなことは通用しない」と書いていたことと合致します。これから村田さんの未読の小説を読むのが楽しみです。