退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

「世界一ポップな国際ニュースの授業」藤原帰一・石田衣良

先週は道徳の授業をしました。飛び入りの授業で、同じ題材を繰り返すので、少しずつ改良を重ねて、3度目にはどうにか納得できる結果になりました。

しかし、教材への「思い入れ」は大切ですね。教材はオスカーワイルドの「しあわせの王子」です。少し前に本を買って熟読していたので、子どもたちにも何とか伝えたいという願いが通じたのかもしれません。

さて、今回紹介するのは世界情勢について学べる対談本です。

 

「世界一ポップな国際ニュースの授業」藤原帰一石田衣良 文春新書

 

面白かった!

藤原帰一さん(東京大学大学院政治学研究科教授)と石田衣良さん(直木賞作家)は私とほぼ同世代なので、知っている映画や本がたくさん出てくるので楽しく読み進めることができました。

 

藤原 自分が生きている意味を教えてくれるのでしょうね。自分がこの世界に存在するのは、自分自身に価値があるからだと考えるのではなく、自分がコミュニティに属し、そのコミュニティが永続することが重要だと考える。しかも、そのコミュニティは長い間虐げられてきた歴史を抱えている。今こそ立ち上がって戦う時がきた、と。この物語は汎用性があります。

石田 中国、ロシア、そしてイスラム急進派、みんな自分が被害者なんですね。小説でもそうなんですが、一番面白くて心躍るのは復讐劇なんです。それが現実の世界でも、みんな復習したいと考えているのは、やりきれないですね。

藤原 権力者の側は、そういう国民の復讐感情を盛り上げることで、自分への忠誠心と、国民としての忠誠心を一体化させることもあります。

石田 共通の敵を仕立てて、権力者も国民も同じ被害者なんだと思わせる。

 

ナショナリズムが人々の心をつかむ理由は何でしょう?

私は自分の中にあるナショナリズムについて考えます。

家族のために、みんなのために、国のために自分を犠牲にすることを尊いと思う気持ちはあります。

しかし、そのことについては冷静に考えないと、一部の人の利益のために奉仕させられていることもあるでしょう。

しかも、時には、悪意がないだけでなく、善意からそれを他人へ押し付けようとする場合があることです。

それを防ぐには常に異論に耳を傾ける姿勢を持ち続けることだと思います。

自分は絶対に正しい、と思わないことです。

 

藤原 アジアに目をむけると、シンガポールはかつて日本の製造業をモデルにしていましたが、すでに新しいモデルに切り替え、アジアの金融センターとして発展しています。そうやって、海外の優れたモデルを常に学んでいるんです。

石田 ネットフリックスのアジア部門は、シンガポールに本社があるんですよ。昔なら絶対に東京だったのに、悔しいですね。

藤原 東京はすでにローカルマーケットの一つになってしまったんです。ただ、日本国内にいると、そうした現状に気づかないかもしれません。

石田 そうですね。これだけ世界的にハリウッド映画全盛なのに、映画館に行けば多くの日本映画を選べる。もちろん、コロナ前の話ですけど、国産の映画を楽しめる国はもはや少数派です。そこそこの稼ぎがあって、そこそこの生活で満足するのであれば、日本はとても居心地のいい国だと思いますよ。

藤原 外に打って出る勢いもないし、ぬるま湯状態で、ゆっくりと縮小していくだけですよ。

石田 コンテンツ産業で言えば、韓国はあたらしいビジネスモデルを確立しましたよね。映画やドラマにしても、K-POPにしても。日本のコンテンツ業界は、韓国をモデルにして、海外での売り方など徹底的に研究するべきですよ。

 

「日本はすごい!」という話を聞いて喜ぶ気持ちは分かります。

メジャーリーグの大谷選手のニュースはついチェックして、活躍していると自分のことのようにうれしくなります。

外国の方から日本のアニメをほめられると、とても誇らしい気分です。

でも、世界的の状況は変わっています。

日本の会社の世界ランキングにおける順位は20年前と比べると無残な結果です。

もっと謙虚になって他の国から学ばないと、日本は衰退することになりそうです。

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