退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

「目の見えない白鳥さんとアートを見に行く」川内有緒著 集英社

「目の見えない白鳥さんとアートを見に行く」川内有緒著 集英社

 

「美術作品を見る」とは一体どういうことなのでしょうか。

この本では、目の見えない白鳥さんと筆者が美術館へ行きます。

目の前にある美術作品のことを、白鳥さんへ伝えます。

その内容は、作品の芸術的価値というよりも、その場で気づいたこと、思い出したことなどが多くなります。

白鳥さんが求めているのも、そんなライブ演奏のような対話の楽しみでした。

今までの美術鑑賞とは違う、気づきの多い体験に筆者は驚かされます。

障がいをもっている人と健常者との関係、対話の意味など、読者に多くの気づきをもたらします。

 

娘がまだ小学生の頃に二人で美術館へ行ったときのことを思い出しました。

絵を見て気づいたこと伝えたり、質問したりしながら見て回り、娘も私もとても楽しい時間を過ごしました。

そのときは、一人でゆっくり見るのもいいけど、こんな楽しみ方もいいかもしれない、と感じました。

今、振り返って考えるのは、「その方がずっといい」ということ。

 

まあ、いいや。答えは分からないままでも。

だって、こうしてみんなで作品を見る目的は、正解を見つけることでもなければ、白鳥さんに正しい答えを教えることでもなく、ましてや、全員が同じものを見ることでもない。

それよりも、異なる人生を生きてきたわたしたちが同じ時間を過ごしながら、お互いの言葉に耳を傾ける。そうして常に「悪」とされる鬼だって、ときに涙を流すことを想像してみる。たぶん、それだけで十分なのだ。そうして、ひととひととの間にある境界線を一歩ずつ越えていこうとすることで、わたしたちは新しい「まなざし」を獲得する。それによって、世界を「あまねく見る」という優しさに、ほんの少しだけ近づけるのだと思う。(本書P160より)

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