退職教員の実践アウトプット生活

教育、読書、映画、音楽の日々雑感

村上春樹と伝説のイノシシ

昨日は妻と大濠公園でランチ。湖上を迷走する巨大な白鳥たちを眺めながらおいしいパスタをいただきました。出発前に私が急がせたのでムースをつけすぎて髪がゴワゴワになったと言う妻の話を聞きながら思い出したのは先週読んだ椋鳩十。伝説のイノシシのこと。その猪は体についた虫を払うために松の木に体をこすりつけるうちに体中に松ヤニがついて、やがてそれは厚い層となり猟銃の弾丸をも跳ね返すほどになったという。そんな話をすると、「私は伝説のイノシシか?」と危うく妻を怒らせるところでした。何気ない会話に気をつけよう。

大濠公園 2023年6月

次の読書会で村上春樹の新作について話すことに決めました。これはリスクが大きな選択。村上はとても人気がありますが嫌う人も多いからです。村上さんは「10人の中で1人が好きになってもらったらいい」と語っていました。これは「10人中の9人には理解してもらわなくてもいい」とも受け取れます。だから嫌う人が多いのかもしれません。

 

私は村上春樹の文章が好きです。村上さんは早朝から午前中いっぱい書き続けることを習慣にしています。午後は翻訳の時間です。この翻訳は自分の趣味のようなもので、「楽しみ」だそうです。もともと文章が上手な人が40年以上も毎日書き続けている。これはもう文章表現が進化を続けるはずですね。

 

今回の物語で私が好きなのは図書館館長として働く「私」の日常描写。村上さんは日常生活の細やかな部分を描写するのがとても上手です。図書館の本の管理、そこで働く人たちへの気遣い、休日に名前のない喫茶店で働く女性との交流。村上さんは会社勤めの経験がないはずなのにどうしてこんなに生き生きと描くことができるのでしょう。

 

物語に散りばめられた「作品」にも惹きつけられます。まずはガルシア=マルケス。「コレラの時代の愛」からの引用があります。寺山修司の映画「さらば箱舟」を思い出しました。これはマルケスの「百年の孤独」がモチーフです。マルケスが読みたくなりました。ジャズサックス奏者ポール・デズモンドも出てきます。透明でメランコリーなデズモンドの旋律が村上の小説世界と重なって現れます。村上春樹の物語はこのように他の文学や音楽にまで想像が広がるところが魅力です。

Seattle 2023年5月